仮想化でプリセールスしてるSEの一日

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Windows Server 2012 Hyper-V の Synthetic Virtual FC 構築手順 (1)

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先月、Windows Server 2012 Hyper-V で実装される SR-IOV の構築手順を 紹介 しました。
SR-IOV は対応ハードウェアが無いと恩恵を受けられないため、
検証しようにも機材を抑えるところから始めなければならず、なかなか大変です。

今回は、ハードウェア対応が必要な Hyper-V の新機能その2として、
「Virtual FC」(正式名称: Synthetic FibreChannel)を紹介したいと思います。


Synthetic FibreChannel とは?

Synthetic FC を簡単にいうと、ゲスト OS が FC-SAN に直接アクセスすることを可能にする技術です。FC-SAN に直接アクセスできると、ゲストから SAN ストレージの LUN を直接マウントできたり、FC 接続のテープ装置に直接バックアップすることが可能になります。



FC-SAN のトポロジ (Fabric) に直接アクセスできるということは、SAN トポロジ内に固有の識別子、つまり住所を持つ必要があります。
イーサネットにおける住所は MAC アドレスですが、FC-SAN の場合は WWPN (World Wide Port Name) です。Hyper-V ではゲストに「仮想 MAC アドレス」を割り振られていましたが、Synthetic FC では「仮想 WWPN」が割り振られ、FC-SAN トポロジにアクセスしていきます。


Synthetic FibreChannel 対応機器の敷居は低い

Hyper-V の仮想ネットワークは、物理 NIC が「スイッチ」のように振る舞います。1つの NIC がその物理ホスト上で動作するゲストの様々な仮想 MAC アドレスに代理応答する形です。

Synthetic FC も同様に、物理 FC-HBA がそのホスト上で動作する様々なゲストの仮想 WWPN に代理応答します。但し、FC-SAN はイーサーネットよりも色々とシビアであり、通常の規格では1つのポートが複数の WWPN を持てません。
1つのポートが複数の WWPN を仮想的に持てるようにしたのが NPIV (N_Port ID Virtualization) です。Synthetic FibreChannel を使うためには、この NPIV 規格に対応した HBA と対向の SAN Switch が必要になります。


「また専用ハードウェアかよ...」と思われるかもしれませんが、SR-IOV と違い、NPIV は数年前より実用化されているため、既存の機器でも対応しています。現行製品は HBA・Switch 共に 16Gbps だったり 8Gbps だったりしますが、私の手元にあった Qlogic と Emulex の 4Gbps HBA でも実際に問題なく利用できました。

NPIV はブレードサーバーの WWPN 仮想化 *1 などにも使われているごく一般的な技術です。ちなみに、ブレードサーバーの WWPN 仮想化技術と Hyper-V の NPIV を使う場合は Nested NPIV (NPIV over NPIV) になるので対応状況をベンダーに確認した方が良いかもしれません。


Synthetic FibreChannel の利用シナリオ

Synthetic FC のシナリオは主に3つです。

ゲストのアプリで MSCS などのクラスタを組みたい(ゲストクラスタ

仮想化では VMware HA や Hyper-V のホストクラスタを利用することで簡易的な HA は組めますが、MSCS といったアプリレベルクラスタに比べると不十分です。
特に、仮想化移行前から MSCS を利用しているアプリは、仮想化しても MSCS で構成したいというリクエストは非常に多いと思います。
このような要望は FC-SAN の規模になればなるほど増えてきますが、Hyper-V でゲストクラスタを組むためには IP-SAN (iSCSI) が必要と、矛盾していました。
CPU に負荷の掛かる iSCSI Software Initiator に比べて、NPIV は CPU Offload が働きますし、SR-IOV と同様に Live Migration フレンドリです

バックアップサーバーを仮想化したい

物理デバイスを接続するサーバーは仮想化しにくく、物理(ベアメタル)で構成するのが一般的でしたが、NPIV を使えばゲストから FC 接続のテープライブラリにアクセス可能になります。
オフロードが働く NPIV では、バックアップサーバーの仮想化も期待できます。

ストレージ管理サーバーを仮想化したい

一部ベンダーの SAN ストレージは FC ケーブルを通して SCSI の拡張コマンドで命令を発行したり、管理サーバーとの通信を行います。この場合、管理サーバーはストレージの管理コントローラーを SCSIバイスとして認識する必要がありますが、Hyper-V のパススルーディスクや VMwareRDM ではストレージの LUN しか認識することができず、コントローラーとゲストは FC 通信できません。
このようなケースでも、NPIV であればゲストからストレージの管理コントローラーを認識できますので、ストレージ管理サーバーの仮想化も可能になります。



次回 は、実際に Synthetic FibreChannel を構築してみたいと思います。

*1:HP Virtual Connect などのシャーシ側に WWPN を割り当てる技術 http://h50146.www5.hp.com/products/servers/bladesystem/c/component/vc/